件名:お天道様は見ている

 

ある時、私はひとりの若い営業マンから相談を受けました。

「毎日、一生懸命仕事をしているのに全然受注できない。何が悪いのか分らない。最近は、自分はこの仕事が向いていないのでは、と思うようになった。」

彼の仕事は、歯医者さんに対して、「患者さん説明用パソコンソフト(1台約100万円)」を販売することで、いわゆるアポなしの「飛び込み営業」が主体です。

 

話を聞けば、3ヵ月間全く受注が無いとのこと。

歯科医院の受付で門前払いになってしまうことがほとんどで、歯科医の先生とは話もできない。

周りの営業マンは平均で月3件程度は受注するので、その焦りは相当なものです。

 

私は、彼が実際にどういう話し方をしているのか、その場でロールプレイングをさせました。

私が受付の女性で、彼が営業マンの役です。

やらしてみると、決して下手ではありません。

きちんと、「FOR YOU」の話し方になっているし、他の営業マンと比べても遜色ありません。

「何がいけないのかな?」正直言って、私も分らなくなりました。

 

そして、二人でいろいろと話し合いました。

「焦っても仕方ない。巡り合わせが悪いと開き直ろうよ。ただし、歯医者さんを訪問する時に、ひとつでも何か相手にとってプラスになることをやって来よう。具体的には何ができるかな?」

「歯医者さんには必ずスリッパがあるから、それを整理することだったら、どこでもできますね。」

「じゃあ、それをやってみようか。受付で断られたところでも必ずスリッパを整理して来よう。」

 

彼は、きっと藁をも掴みたかったのでしょう。

毎日、毎日、歯医者さんを訪問する度にスリッパを整理し続けました。

そうしたらどうでしょう?

不思議と受付を突破する確率が高まり、月3件どころか、5件も6件も受注できるようになったのです。

スリッパ整理は「帰りがけ」に行うことですので、彼の真摯な姿を見て、受付の女性の気持が変わった訳ではありません。

また、彼自身も、意識して話し方を変えた訳でもありません。

以前と違うのは、スリッパを整理して帰るようになったこと、ただそれだけです。

 

私はコンサルタントとして、なぜ、彼が急に「売れる」ようになったのか論理的に説明することはできません。

しかし、実はこうしたことは良くある話なのです。

こんな時は、私は、やっぱり「お天道様は見ている!」と心から実感するのです。