件名: 最後の戦い

 

前回のメールで、シチズン時計の板橋さんの話を書きました。

「15戦13勝2敗…」

すごいことだと思いませんか?

しかし、実はこの話には、続きがあるのです。

 

「我ながら『ここまでよく頑張ってきたな』と思いました。 しかし、定年までは、まだ1年数ヵ月あります。 私は、最後に『もう1回戦う』ことを決めました。…」

 

その後、板橋さんは、前の年に制度化された「提案制度」を利用して、「新しい事業」を企画することにしました。

しかし、そうは言っても、どんな事業が可能なのか見当もつきません。

図書館で調べたり、知人・友人と、いろいろと情報交換したり…。

そして、行き着いた結論が、「アウトレットモールでの直営店事業」です。

アウトレットモールとは、売れ残り商品等を安値で販売する大型ショッピングセンターですが、近年、日本でも全国各地に建設されています。

そこに、シチズンが自ら出店し時計を販売する。

板橋さんは、一気に「事業企画書」を書き上げ会社に提案しました。

 

シチズンは従来から代理店経由の販売であり、小売業の経験は全くありません。

「直営店なんて出したら代理店から大クレームが起こる!」

社内では、そんな反対意見が大勢でしたが、社長の英断で2001年の夏には、事業化が決定しました。

シチズン社内では提案制度からの事業化は初めてのことです。

それを定年まであと1年足らずの人が行ったのです。

 

開業は2002年春。

場所は三重県の長島市。

提案した板橋さんは、当然、開設責任者です。

 

品揃え、価格決め、店舗設計、店員集め、店員教育、広告宣伝…。

全てが初めての経験。

開業数ヶ月前からは、現地に単身赴任をされていましたが、その苦労は並大抵なものではなかったそうです。

そして開業。

時計業界NO.1のシチズンのアウトレットモールへの出店はマスコミにも注目されました。

では結果は…。

出店している77店舗中、坪当たり売上高は3位。

計画の2倍の売上ということです。

 

開業から3ヵ月後、板橋さんは定年退職されました。

会社からは、「もう少し残って、他のアウトレットモールへの出店にも協力して欲しい」

という要請があったそうですが、きっぱり断わりました。

「自分の最後の戦いは終わった…」

きっと、そんな気持ちだったのでしょう。